小児てんかんの特徴は?
医療上、18歳位までの患者さんのてんかんを小児てんかんと呼んでいます。
小児てんかんには色々な種類・症状がみられ、また、成長に伴って治っていくてんかんや、難治になると予測されるてんかんなどがあります。
小児てんかんは、生まれた時の脳の損傷や先天性代謝異常、先天性奇形が原因で起こるてんかんが多く、乳幼児期に発病する頻度が高いとされていますが、先進国では医療の進歩により減少傾向がみられます。
小児てんかん全体では原因不明のてんかんが多く、発病は生後から3歳までと学童期に起こりやすいことが知られています。
国内外の疫学研究では、小児てんかん全体において、焦点てんかん(部分てんかん)は60~70%、全般てんかんは20~30%、全般焦点合併てんかん・病型不明てんかん(未決定てんかん)が1~10%前後という結果が得られています。
小児てんかんの治療は両親を通して行われることが多いため、よりよい医師-親-子供の連携関係を築くことが大切です。また、治療は長期にわたるため、てんかん発作を抑制することに加えて、日常生活や学校生活を健やかにおくれるような管理や心理的支援が必要です。
子供の年齢と呼び方(年齢区分)
年齢 | 呼び方 |
---|---|
0 歳~15歳未満 | 小児 |
生後28日以内 | 新生児 |
生後28日~ 2歳未満 | 乳幼児 |
1 歳~7歳未満 | 幼児 |
2 歳~12歳未満 | 児童 |
6 歳~12歳(小学生) | 学童 |
12 歳~16歳または18歳 | 青少年 |
1)発病時期
小児てんかんは1歳までの発病が最も多く、そのほとんどは脳に損傷があるなど原因が明確であるてんかん(症候性てんかん)です。また幼児期から学童期にかけては欠神てんかんや自然終息性の小児てんかん(良性小児てんかん)など、成人までに治ってしまうてんかんが多いという特徴があります。
2)新生児の発作
新生児に起こるけいれん発作は、出生時の体重が通常よりも軽い子に起こる頻度が高く、ある程度の割合でてんかんに移行します。また、新生児はぐったりするだけの発作も多く、脳波異常と臨床症状が一致することが非常に少ない(ある調査では21%)とされています。
けいれん発作を放置することは脳障害の増悪につながることがあるため、早期に診断して治療を始めないと、脳性麻痺やてんかんなど、神経に後遺症を残したり、死亡することもあります。
なお、新生児の発作の多くは起始不明発作に分類されます。
3)小児に多い発作
小児に多い発作に欠神発作があります。普通に話をしたり、何かをしている時に、突然意識がなくなる発作です。
発作が起こると急に話が途切れたり、動作が止まってしまいます。その時間は20秒、30秒と短いことが多く、またけいれんなどの症状は現れないので周囲の人に気づかれないことも多いです。
食事中に箸を落としてぼーっとしたり、発作が頻繁であると落ち着きがない、集中力に欠ける、授業中にぼんやりしている、とみられてしまうこともあります。
小児てんかんの原因と症状
小児てんかんの原因を大きく分けると、大脳に傷があるなど発作の原因が明確なてんかん(症候性てんかん)と、特定の原因がないてんかん(特発性てんかん)になります。
例えば、新生児ではお母さんのお腹の中にいる間、あるいは分娩時に何かの原因で大脳が傷つき、それが原因でけいれんを起こすことが多いとされています。また、生まれつきの脳の奇形(先天性奇形)や代謝異常(先天性代謝異常*)などでも発病する可能性があり、これらは多くが3歳位までにてんかんを引き起こします。
その他にも、感染症や頭部のケガなどが原因で起きたり、てんかんになりやすい体質を持った子が何かのきっかけで引き起こすこともあります。
*先天性代謝異常:
健康な子が持っている一つあるいは複数の酵素(老廃物など、体の中の悪いものを無毒化し、体の外へ排泄するときに必要なもの)が生まれつき欠損するなどのために起こる病気。ライソゾーム病やガラクトース血症など。
小児てんかんの分類
てんかんは、まず発作型(焦点発作(部分発作)、全般発作、起始不明発作)を特定し、次にてんかん病型(焦点てんかん(部分てんかん)、全般てんかん、全般焦点合併てんかん、病型不明てんかん)を特定、最後にてんかん症候群を特定するという3段階で診断されます。
小児てんかんは、中には症候群の診断ができないものもありますが、症候群を特定することで適切な治療や症状の経過を見通すことができます。ここでは新生児~小児期に発症する可能性があるてんかん症候群について紹介します。
1)新生児・乳児期に発症する自然終息性てんかん
2歳未満で始まる自然終息性てんかんは、通常、薬による治療で発作をおさえることができ、時間とともに発作は消失します。
種類 | 発症時期 | 特徴 |
---|---|---|
自然終息性家族性新生児てんかん (良性新生児家族性けいれん) |
生後2~7日 ごろ |
自然終息性家族性新生児てんかんと自然終息性新生児てんかんは、検査所見や発作の内容は類似しています。ただし、家族歴によって区別することができ、家族に自然終息性新生児てんかんの既往歴があれば、自然終息性家族性新生児てんかんだと考えられます。 生後2~7日の間に発症し、通常、発作は生後6か月までに消失します。 発作は頭部、顔面、四肢の強直が特徴で、間代発作やミオクロニー発作などもみられます。また、無呼吸などの自律神経症状が主な症状となることもあります。 両親のどちらかに自然終息性家族性新生児てんかん、および自然終息性新生児てんかんがあると、1/2の確率で症状が現れると考えられています。 |
自然終息性新生児 てんかん (良性新生児けいれん) |
||
乳児ミオクロニー てんかん (乳児良性ミオクロニーてんかん) |
生後4か月~ 3歳ごろ |
生後4か月~3歳の間に発症し、特に生後6~18か月の発症が多いとされています。男児に発症が多いことも分かっています。発作はほとんどすべての患者で、発症後6か月~5年以内に消失します。ただし、軽い知的障害や学習障害をともなうことがあります。 |
2)自然終息性焦点てんかん
小児において年齢に関連して起こるてんかんです。
種類 | 発症時期 | 特徴 |
---|---|---|
中心側頭部棘波を示す 自然終息性てんかん (中心・側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん、良性ローランドてんかん) |
4~10歳 ごろ |
通常、発症時期は4~10歳で、特に7歳ごろの発症が多いとされています。入眠直後に顔面の片側けいれん、口周囲の異常知覚、発語停止、ほほの収縮、過剰なよだれなど焦点発作(部分発作)の症状が現れます。焦点起始両側強直間代発作(二次性全般化発作)へと進展することもあります。発作は通常、思春期までに消失しますが、中には18歳ごろまで続くこともあります。 |
自律神経発作を伴う 自然終息性てんかん (パナエトポラス症候群、早期発症良性後頭葉てんかん) |
3~6歳 ごろ |
通常、発症時期は3~6歳ですが、中には1~2歳、あるいは7~14歳に発症することもあります。吐き気や嘔吐、顔面蒼白、紅潮、倦怠感、腹痛などの自律神経症状がみられることが特徴です。通常、発症から数年以内に発作はなくなり、罹患期間の平均は約3年であるといわれています。 |
小児後頭視覚てんかん (遅発性良性後頭葉てんかん、ガストー症候群) |
8~9歳 ごろ |
通常、発症時期は8~9歳ですが、中には1~7歳、あるいは10~19歳に発症することもあります。視野が暗くなったり、錯覚、幻覚が起きたり、眼をパチパチさせたりなど、目の症状から始まります。発作は薬により抑えることができ、必ずではありませんが、2~7年以内に発作がおさまることが多いと考えられています。 |
光過敏後頭葉てんかん | 4~17歳 ごろ |
光過敏後頭葉てんかんはまれなてんかん症候群です。1~50歳と幅広い年齢で発症する可能性がありますが、最も多い発症年齢は4~17歳といわれています。太陽光のちらつきやビデオゲームなど光によって発作が引き起こされることが特徴です。光や色のついた斑点が見えたり、幻覚が見えたりなどの症状が現れます。年齢とともに発作が消失する場合もあれば、発作が持続することもあり、予後はさまざまです。 |
3)素因性全般てんかん
小児期に発症する全般てんかんは、基本的に脳の損傷によるものではなく、遺伝的要因などのてんかんになりやすい体質によって起こると考えられています。下記のほかにも、まれではありますが、ミオクロニー欠神発作を伴うてんかんや眼瞼ミオクロニーを伴うてんかん(ジーボンス症候群)などがあります。
種類 | 発症時期 | 特徴 |
---|---|---|
小児欠神てんかん (ピクノレプシー) |
4~10歳 ごろ |
男児より女児に多く、1日に数回から数十回の欠神発作が出現します。症状は意識混濁のみで、通常はけいれんを起こすことはありません。過呼吸で発作が誘発されやすいという特徴があります。小児欠神てんかんは通常、抗てんかん薬による治療が有効で、およそ60%の患者は青年期ごろには発作が消失すると考えられています。 |
若年欠神てんかん | 9~13歳 ごろ |
発作症状の内容は小児欠神てんかんと同じですが、小児欠神てんかんに比べると発作の頻度が少ない、意識混濁の程度が軽い、全般強直間代発作がみられることが多いなどの特徴があります。抗てんかん薬により発作を抑えることは可能ですが、ほとんどの場合、生涯にわたった治療が必要になると考えられています。 |
若年ミオクロニーてんかん(JME) | 10~24歳 ごろ |
主に青年期、成人期に発症しますが、8~40歳までの年齢で発症の可能性があります。すべてのてんかんの約9%を占め、よくあるてんかん症候群です。ミオクロニー発作は寝起きや疲労時に生じることが多く、睡眠不足が発作を引き起こす要因であることがわかっています。生涯にわたった治療が必要になることもあります。 |
全般強直間代発作のみを示すてんかん (覚醒時大発作てんかん) |
10~25歳 ごろ |
寝起きから2時間以内に全般強直間代発作が起こることが多く、通常、発作は睡眠不足によって引き起こされることが分かっています。 |
4)発達性てんかん性脳症またはてんかん性脳症
てんかん性脳症とは、てんかんそのものが認知や行動の障害を引き起こす病気のことをいいます。
下記のほかにも、まれではありますが、片側けいれん・片麻痺てんかん症候群や発熱感染症関連てんかん症候群などがあります。
種類 | 発症時期 | 特徴 |
---|---|---|
乳児てんかん性 スパズム症候群 |
生後3~ 12か月ごろ |
ウエスト症候群と、ウエスト症候群の基準をすべては満たしていない乳児のてんかん性スパズムをまとめて、乳児てんかん性スパズム症候群と呼びます。てんかん性スパズムと呼ばれる手足や頭部に1~3秒程度、力が入る発作を繰り返し起こすことが特徴です。乳児てんかん性スパズム症候群は、レノックス・ガストー症候群やそのほかの薬剤抵抗性焦点てんかんに移行することが多いことが知られています。 |
レノックス・ガストー症候群 | 生後18か月~ 8歳ごろ |
発症時期は生後18か月~8歳ごろで、特に3~5歳で発症することが多いてんかん症候群です。ウエスト症候群など乳児てんかん性スパズム症候群から移行して発症することがあります。強直発作と、そのほか脱力発作や非定型欠神発作などが現れます。また、発達の遅れ、停滞、退行などもみられます。 |
ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん | 2~6歳 ごろ |
ミオクロニー発作、ミオクロニー脱力発作(転倒する)、脱力発作が臨床発作の主体です。その他、非定型欠神発作、全般性強直間代発作、熱性けいれんなどを合併します。 |
小児てんかんは治るの?
小児てんかんは比較的治る可能性の高い病気です。
特別な治療が不要なケースもありますが、多くの場合は正確な診断と抗てんかん薬の服用など適切な治療によって発作を起こさず生活することができます。また外科手術で治ることもあります。なお、てんかんには治療によって治りやすいタイプと治りにくいタイプがあります。
主なてんかんの治りやすさ
治療で発作が 消失するタイプ |
中心側頭部棘波を示す小児てんかん (中心・側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん) |
通常、成人になるまでには完全に治ります。 |
---|---|---|
小児欠神てんかん | 大部分は成人になるまでに治ります。全身けいれんがみられない方が治りが良いとされています。 | |
治療で完全に発作が 抑えられるタイプ |
若年ミオクロニーてんかん | 適切な抗てんかん薬を続けることによって発作を抑えることができます。 |
治療で発作が 抑えにくいタイプ |
ウエスト症候群、 レノックス・ガストー症候群 |
いわゆる「難治性」といわれるてんかんですが、新しい抗てんかん薬の発売により、効果のある治療ができるようになっています。 |
生活での注意点は?
1)誘発因子と助長因子
てんかん発作の80%は偶発的に、20%は誘発されて、1%は反射的に起こることが知られています。ある刺激や出来事によって発作が起きる場合、その刺激や出来事を発作の誘発因子といいます。一方、発作が起こりやすくなる状況を発作の助長因子といいます。主に精神的緊張、意識の変化、睡眠不足、発熱などが助長因子になることが多く、生活を改善したり、原因をなくすことが、発作を治療する上で重要です。
年齢による発作の助長因子
前学童期 | 発熱、感染症、入浴 |
---|---|
学童期~前思春期 | 疲労、睡眠不足、ストレス、感情の動き |
思春期後期 | 月経、疲労、睡眠不足、ストレス |
入浴
入浴時の発作は大変危険です。次のような工夫をしてみましょう。
お風呂に入るときの工夫
- 誰かと一緒に入る
- 風呂場に鍵をかけない
- お湯の量を少なくする
- シャワーだけにする
- 転倒してもけがをしないようにマットを敷く
- 時々声がけをして返事をさせ、声を確認する
もし浴槽内で発作が起こったら…
まず、お湯から顔をあげて息がしやすいようにします。難しいようなら栓を抜いてお湯を落とします。そして、意識が回復するのを待ち、ゆっくりお風呂から引き上げましょう。
テレビ・ゲーム
てんかん発作は、光刺激により起こりやすくなることがあります。光刺激で発作を起こしたことがあれば、光刺激の強いテレビや ゲームは望ましくありません。 どうしてもゲームが止められない場合は、明るい部屋で、画面から離れて、長時間のプレイは避けるようにしましょう。
2)てんかんを持つ子供の育て方
特別な育て方はありません。いきなり倒れる発作などがある場合にはケガをしないような工夫が必要ですが、一般的には発作ばかりに目を奪われない育て方が大切です。
子育てとてんかん治療を同時に行うことになりますが、てんかん治療や発作抑制を最優先すると、子供の発達への視点がおろそかになります。
子供は日々成長するため、その年齢に応じた育て方が必要です。てんかん発作に注意しながらも、過保護にはせず、てんかんのない子供と同じように育てていくことが大切です。
3)幼稚園や学校生活での注意点
幼稚園・保育園や学校での生活に関しては、毎日の生活を規則正しく、早寝・早起きの生活リズムを守っていると発作は起こりにくいとされています。
学校では、春の担任交代やクラス替えの時期、運動会前や学習発表会、試験の前後など、緊張や疲れが出る時期には注意が必要です。
あらかじめ、担任教師や養護教諭と相談しておき、てんかん発作が起こった場合の対処などについて備えておくことが大切です。
家庭・病院・学校の連携
てんかんのある子供には家庭・病院・学校(周囲)の連携が必要です。
日中に発作がある場合は、あらかじめ担任教師や養護教諭に相談し、発作の症状や頻度、発作が起こった場合の対処などについて伝えておきましょう。また、落ち着きや集中力のなさ、不機嫌、軽度の知的障害などの合併があったり、自動症や意識の消失などが現れる場合は、事前にそのことを伝えておきましょう。
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修学旅行・臨海学校・林間学校
学校行事への参加を制限することで、子供は差別感や心理的な負担を抱えます。また、その後の社会性や心の発達にも影響するので、発作が直接生命に危険が及ぶような場合を除き、次のことに気をつけながら、行事には積極的に参加する方が良いでしょう。参加にあたっては、てんかんの診断と症状、発作の症状や頻度、対処法を伝えるなど、事前に学校側とよく相談しておくことが大切です。
- 指示どおりの服薬を続ける(毎日同じ時間に飲み、飲み忘れがないように注意する)
- 無理のないスケジュールで規則的な生活を送り、睡眠時間も十分に
- 不安や緊張を著しく高める遊びは避ける
- 薬は多めに持っていく
- 飲んでいる薬の内容、家や病院の連絡先を書いたメモを身につけておく
4)スポーツ・水泳
現在では、楽しんで体を動かすことや、適度な緊張感が発作を抑制することが知られ、てんかんがあってもスポーツや水泳をすることは可能であることがわかってきました。但し、発作を起こすことで生命の危険がある場合(登山やスキーなど)、疲労や緊張、光などにより発作を起こしやすい方は注意が必要です。万一、発作が起こったときに介護できる人がそばにいると良いでしょう。
- 見守り(監視)、救助体制がある
- 流れの速い川や海、炎天下は避ける
- 長時間泳がない・飛び込んだり、深く潜らない
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主な合併症
てんかんには精神的な合併症を伴うことがあります。通常は、適切な治療をすることで、新たに合併症を起こすことは少ないと考えられています。ここでは、特に小児に問題となる合併症を説明します。
1)発達障害
てんかんと発達障害が合併する場合、多くは知的障害を伴っています。
2)重症心身障害
重度の身体障害と重度の知的障害を併せ持つ重症心身障害はおよそ30~60%、てんかんを合併し、ほぼ寝たきり状態の重度障害者はおよそ80%とされています。
3)認知機能障害
認知機能とは、いろいろな情報を知覚・判断・記憶する情報処理の機能のことで、対人関係を築くこと、計算をすること、計画を立てること、文章を理解すること、ものを考えることなどに関係してきます。特に小児期は認知機能の基礎的な機能が急速に発達するので、この時期に発作が頻繁に起こると認知機能の発達に影響する可能性があります。
また、脳の外傷などによりてんかんが発病した場合には、てんかんとは関係なく、脳の傷が認知機能障害を起こすこともあります。
さらに、抗てんかん薬が眠気などを起こし、昼間に十分な活動ができないことで、脳の発達に影響する場合もあります。生活の上で気になることがあれば、早めに主治医に相談して、対処することで、認知機能の発達に悪い影響を与えないことが大切です。
間違えられやすい病気
小児てんかんの発作には様々な種類があり、また小児の場合は1回の脳波検査では異常が出ないことが多いので、精神疾患や発達障害として診断される可能性があります。
焦点意識保持発作(単純部分発作)では、手足や顔がつっぱる、ねじれる、からだ全体が片方にひかれる、回転する「運動発作」や、手足や顔がピリピリする、しびれる「感覚発作」、見えなくなる、輝く色々なものが見える「視覚発作」、音が聞こえなくなる、鐘の音が聞こえる「聴覚発作」などの症状が奇行と誤解されたり、また、焦点意識減損発作(複雑部分発作)でも、意識がなくなるとともに、舌なめずりをする、手で衣服をまさぐったりする、歩き回る、手をたたくなどの動作が度々みられる場合は、精神疾患として診断される場合があります。
また、欠神発作では突然意識がなくなり、急に話が途切れたり、動作が止まり、一点を見つめたまま無反応になります。数秒から20、30秒と非常に短いことが多く、周囲の人たちに気づかれないことも少なくありません。食事中に箸を落としたり、反応が悪いことから、落ち着きがない、集中力に欠ける、授業中にぼんやりしているなどと見られ、発達障害と診断されて治療を受けていることもあるようです。
また、毎朝目覚めるときに意識を失う発作が繰り返され、そのために不登校になった子供に対して、家族は「心の問題」と決めつけて責め続けていたケースもあります。
いずれも専門医の診断が遅れたために、成長の大事な時間の多くを奪われてしまったという事例です。
この他にも、小児てんかんに間違えられやすい病気をいくつかご紹介します。
てんかんとけいれん
けいれんは「自分の意志とは関係なく筋肉が激しく収縮する」ことで、てんかん以外にも起こる症状です。てんかん発作以外のけいれん(非てんかん性けいれん)は、抗てんかん薬を飲んでも効果がないので、てんかん発作と非てんかん性けいれんは区別する必要があります。てんかん発作は、ほとんど同じ症状の発作を繰り返すことと、脳波にてんかん波がみられるという特徴があります。ただ、非てんかん性けいれんの中には同じ症状を繰り返す場合があるので、けいれんを起こす状況や脳波などから総合的に判断します。
1)熱性けいれん
てんかん以外のけいれんとして、小児の「熱性けいれん」が有名です。乳幼児(多くは6ヵ月から6歳まで)が、感染症などにより体温が急激に上昇する際にけいれんを起こします。熱性けいれんは発熱により起こり、てんかんは発熱以外でも発作が起こります。
熱性けいれんの特徴
- 発作の時間はほとんどが5分以内で、長くても15分程度
- 24時間以内に再び発作が起こる可能性は13~16%
- 発作を繰り返す割合は30~50%で、ほとんどが2~3回でおさまる
- 最初の発作が起こった年齢が低いほど(1歳以下)、再発する可能性が高い
- 熱が高い(39℃位)方が起こりやすい
- 女児の方が男児よりも起こりやすく、繰り返しやすい
- 日本の一般人口の熱性けいれんの患者さんの割合は5-8%
2)息止め発作
乳幼児によくみられる症状で、激しく泣いている乳幼児が急に呼吸を止めて意識がなくなり、チアノーゼ(体内の酸素が不足して皮膚や粘膜が青紫色になること)になり、全身を硬直させて首や背中を反り返らせる発作です。
3)失神
乳幼児によくみられる症状で、激しく泣いている乳幼児が急に呼吸を止めて意識がなくなり、チアノーゼ(体内の酸素が不足して皮膚や粘膜が青紫色になること)になり、全身を硬直させて首や背中を反り返らせる発作です。
4)心因発作
精神的な問題が原因でてんかん発作のような発作を示すことがあります。てんかん発作は、ほとんど同じ症状を繰り返し起こすことが特徴ですが、「発作のたびに違う症状が現れる」、「誰もいないところでは発作が起こらない」などの場合は、心因性非てんかん性発作の可能性があります。てんかん発作かどうかは脳波などを検査し総合的に判断します。
5)チック
チックは、顔の筋肉が時々ピクッと動き、同じ筋肉ばかりでなく違う筋肉にも起きたり、様々な間隔で症状が起こります。精神的な緊張がある時に起きやすくなりますが詳しい原因は不明です。
その他に、軽症下痢に伴う発作、睡眠時(入眠時)ぴくつき、悪夢、かんしゃくなどにもけいれんが現れます。
てんかんと遺伝
少数のてんかん症候群を除き、多くの場合てんかんは遺伝しません。「てんかん発作の起こりやすさ」は遺伝する可能性がありますが、てんかんを引き起こす別の原因があって初めて発症すると考えられます。また、脳の損傷によって起こるてんかんは遺伝しないとされています。
最近の研究では、てんかん患者さんの子供がてんかんを発病する頻度は4~6%で、一般の人の2~3倍と言われています。但し、てんかんの種類によってその頻度は変わります。日本で行われた調査では、てんかん患者さんの子供にてんかんが発病した頻度は4.2%で、発作の原因が明確でないてんかん(特発性てんかん)が11.0%、脳に損傷があるなど原因が明確であるてんかん(症候性てんかん)が3.2%、全般発作が9.2%、焦点発作(部分発作)が1.8~5.9%でした。
てんかんが遺伝するかどうかは妊娠中の人だけでなく、これから結婚する人にとっても大変重要な問題ですので、「遺伝カウンセリング」を受け、相談に乗ってもらうとよいでしょう。
遺伝カウンセリング
遺伝子の異常で起きる遺伝病や先天異常について、患者やその家族の疑問に応え、相談に乗ってくれるカウンセリング。現在では「認定遺伝カウンセラー」という遺伝病専門のカウンセラーの養成が進んでいます。
小児科 教授 小国 弘量 先生
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