高齢者
高齢者のてんかんの原因や種類、症状などの特徴について
高齢者のてんかんの診断や検査について
高齢者のてんかんについての動画解説
高齢者(65歳以上)のてんかんの原因や種類、症状などの特徴について
高齢者のてんかんの診断や検査について
高齢者のてんかんについての動画解説

高齢者のてんかんは、大部分が脳に障害があったり、脳の一部が傷ついたことで起こるてんかんです。意識障害が伴う焦点意識減損発作(複雑部分発作)が多く、発作中は意識障害のために記憶がありません。また、発作後はもうろう状態が長く続いたり、発作の回数も多い場合もあり、約半数に記憶障害が自覚されます。中には焦点起始両側強直間代発作(二次性全般化発作)により全身けいれんを起こすこともありますが、けいれんを伴わないために、見逃されたり、認知症と誤診されるケースも少なくありません。高齢者てんかんでは、側頭葉てんかんが最も多く約7割、次いで前頭葉てんかんが約1割です。

さらに、若年期に発病したてんかんが治っていたのに再び出現したり、中年期以降に素因性全般てんかん(特発性全般てんかん)が発病し、そのまま継続する患者さんもみられます。これらのてんかんは、全般強直間代発作、ミオクロニー発作、非けいれん性もうろう状態などがみられます。

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高齢者のてんかん

側頭葉てんかんの症状(例)

  • 自動症:口をモグモグする、身振りをする 等
  • 自律神経性症状:腹痛などのお腹の症状が前ぶれとして起こる、嘔気・嘔吐、発汗、立毛、熱感、冷感、腹鳴、心悸亢進、胸部圧迫感、頭重感 等
  • 精神症状:未体験なのに過去に体験したような感覚(デジャヴ、既視感)、いつも体験していることが未体験のように感じる(ジャメヴ、未視感)、昔の記憶が次々と頭に浮かぶ(フラッシュバック)、恐怖感 等
  • 認知障害:記憶障害、言語障害
  • 動作の停止
  • 発作後にもうろうとして歩き回る

高齢者てんかんと認知症の違いは次のようなものがあります。

  • 状態が良い時がほとんどですが、時に発作症状がみられることがあります。
  • 部分的に記憶がない時があります。
  • 意識が短時間(3~5分)とぎれることがあります。
  • 自動症(体をゆする、ボタンをいじる、など)がみられます。
  • 睡眠中にけいれんがあります。

高齢で発症するてんかんは多いの?

一般に、高齢者てんかんは脳卒中など原因がわかっているてんかん(症候性てんかん)が約2/3、原因不明のてんかん(特発性てんかん)が約1/3で、この点が小児てんかんと大きく違います。

欧米における高齢者てんかんの年間発症率を調査した研究では、70歳以上が人口10万人あたり100人以上、80歳以上になると150人以上となり、70歳以上では10歳以下よりも発病する頻度が高いという結果でした1)~3)
また、別の調査では60歳以降のてんかん有病率は1.5%で、年齢が高くなるほどてんかんを持つ人が増加するという結果があります。しかし日本では広範囲における調査は現状では行われていません。

出典:
1)Hauser WA, Banerjee PN: Epilepsy 45-56, 2008
2)Olafsson E, Ludvigsson P, Gudmundsson G. et al.: Lancet Neurol 10, 627-634, 2005
3)WHO: Epilepsy Atlas. Switzerland 2005

年齢別のてんかん発病率
拡大できます 年齢別のてんかん発病率

出典:
Reprinted from The Lancet, 395(10225), Sen A et al., Epilepsy in older people, 735-748, Copyright 2020, with permission from Elsevier.

高齢者てんかんの原因は脳卒中が30~40%と最も多く、次いでアルツハイマー病などの神経変性疾患(脳内の様々な場所で神経細胞が死んでしまう病気)や頭部の外傷、脳腫瘍などが挙げられます。しかし、全体の25~40%は原因不明とされています。

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高齢者のてんかんの原因
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1)病気や外傷などによる脳の損傷(神経変性疾患を除く)

脳血管障害(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)、頭部外傷、脳腫瘍(転移性脳腫瘍、神経膠腫)、その他(脳炎、脳症など)が原因で大脳に傷がついたり、腫瘍や出血が原因で脳が圧迫されることで、てんかんが起こる可能性があります。特に、発作の起こりやすい場所に傷がつくとてんかんが発病する可能性が高くなり、また、傷や圧迫などの場所や大きさ・種類などによって発作の種類は異なります。
脳梗塞や脳出血を起こした場合、65歳以上の人が将来的にてんかんを起こす確率は、大きな障害でなくても50~75%と大変高くなります。これは、今後の高齢化社会を考えるととても大きな問題です。

2)神経変性疾患(アルツハイマー病など)

アルツハイマー病は、大脳の側頭葉の内側にある「海馬」から神経の変性が起こることが多いといわれています。海馬はてんかんとのつながりが深い脳の部分で、ここを起点とするてんかんは側頭葉てんかんとして扱われます。したがって、アルツハイマー病の人は側頭葉てんかんが多いといわれています。

3)原因不明

CTやMRI検査などで大脳に異常がみられないにもかかわらず起こるてんかんもあります。その多くは、一度治っていたてんかんが再発したものが多く、全般てんかんの発作型を示します。

高齢者てんかんは脳卒中(脳梗塞や脳出血)や脳腫瘍のような脳の病気、あるいはアルツハイマー病のような神経変性疾患によっててんかんを発病することが多いため、それらの病気とてんかん、付随して併発する病気とのつき合い方が大切です。
自分に発作があるということがストレスになり「うつ症状」を生じることや、脳卒中を起こした後にもうつ病を発症することが多いことが知られています。できるだけストレスを溜め込まないような生活を送れるようにしましょう。

高齢者てんかんの発作症状は非けいれん性発作が多く、意識障害や言葉が出ない、発作後にもうろう状態が続くなど患者さんごとに様々な症状がみられます。そのために周囲は気づきにくく、てんかんとしての判断が難しく他の病気と見誤ってしまうことも多くあります。
意識障害により当人は発作時の記憶がなく話が噛み合わないことで、周囲からは、認知症、健忘症、うつ病などと勘違いされることがあります。また、突然その場にふさわしくない行動をとったり、ぼんやりするような発作症状も認知症と勘違いされやすいです。
認知症やうつ病とてんかん発作との違いは、意識障害以外にもいつも同じ症状を繰り返したり、発作時以外は記憶がはっきりしていることです。また、脳血管疾患やアルツハイマー病などではてんかんを合併していることも多いので、正確な診断が大切です。てんかんを確認するためには、脳波検査が行われます。

高齢者のてんかん発作と間違えられやすい病気

心血管障害 失神、けいれん性失神、心不全、不整脈、など
脳血管障害 一過性脳虚血発作(軽度の意識障害を伴う場合)、など
片頭痛 脳底型片頭痛、など
薬物中毒 アルコール離脱、各種中枢神経作用薬、など
感染症 急性脳炎、慢性脳炎、寄生虫感染症、敗血症など
代謝性疾患 低血糖、高血糖、電解質異常、甲状腺機能障害、ポルフィリア、高炭酸血症、など
睡眠異常症 レム睡眠行動障害、周期性四肢運動障害、夢遊症、夜驚症、など
精神科的疾患 心因性非てんかん性発作、うつ病、解離性障害、遁走、双極性障害、不安神経症、など
一過性全健忘 (反復することもある)
認知症 アルツハイマー病、など

出典:日本てんかん学会ガイドライン作成委員会報告 高齢者のてんかんに対する診断・治療ガイドラインより

監修:むさしの国分寺クリニック
名誉院長 大沼 悌一 先生

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