日常生活のアドバイス
このページでは、睡眠、運動、食事、入浴、テレビ・ゲーム、旅行・レジャー、学校、予防接種、運転免許、就職、結婚・出産、周囲の協力、社会制度など、日常生活においての様々なアドバイスをご紹介しています。
睡眠
起きている時よりも寝ている時の方が、異常な脳波が現れやすいことが知られています。また、睡眠不足の状態になると発作が現れやすく、睡眠不足は、てんかん発作の助長因子の1つですので、十分な睡眠をとってください。ただし、過度な睡眠は不要です。
運動
水泳
発作がなく、次のことに気をつければ原則的に水泳は可能です。
万一の時に備えて監視・救助体制があること、流れの速い川や救助が迅速に行えない海は避けること、疲労により発作を誘発することがあるので長時間泳がないこと、飛び込みや水に深く潜ることは避けること。
水泳以外のスポーツ
サッカーや剣道など他のスポーツをする場合も、発作がない限り可能です。ただし、疲労や緊張、炎天下での運動や、光などにより発作を起こしやすい方は注意が必要です。また、万一、発作が起こった時に介護できる人がそばにいることが望ましいです。
食事
ケトン食療法などの食事療法をしている場合を除き、食事には特に制限はありません。ただし薬の種類によっては、グレープフルーツの摂取により薬物の血中濃度が上昇することがあるので注意が必要です。服用薬と食物の関係について、不安な時は主治医または薬剤師にご相談ください。
入浴
小児てんかんに関係した死因の中で最も多いものは「溺死」で、「風呂での事故」が1番多いという報告があります。入浴時に発作が起こると、浴槽の中で溺れる可能性があるため、次のような工夫が必要です。
お風呂に入る時 |
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溺れてしまったら |
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テレビ・ゲーム
長時間にわたり、テレビを見続けたり、ゲームを続けると発作が起こりやすくなることがあります。また、縞模様、チラチラする光、赤色の刺激などで発作が誘発される「光過敏性てんかん」などもあります。
これまでに視覚刺激で発作を起こしたことがあれば、光刺激の強いテレビやゲームはできるだけ控えてください。
もし、画面を見る場合は、画面は小さい方が望ましく(できれば12インチ以下)、画面の4倍以上距離を離れて、長時間見るのは避けましょう。
光過敏性てんかんは、年齢につれて発作が起こりにくくなることもあり、経過の変化を見ることも大切です。
旅行・レジャー
旅行やレジャーなど楽しい行事は生活に潤いが出たり、気分転換にもなるので、積極的に出掛けましょう。
ただし、次のことに注意が必要です。
- 規則的な生活を送り、睡眠時間を十分にとる。
- 無理のないスケジュールを立てる。
- できれば1人だけの旅行は避ける。
- 発作症状や発作が起きた時の対処法を同伴者に教えておく。
- ジェットコースターやお化け屋敷など、精神的不安・緊張を著しく高める遊びは避ける。
- 服薬を指示どおり続けましょう。
- 薬は予定より多めに持参する。
- 飲んでいる薬の処方せん、家・病院への連絡方法を書いたメモを身につけておく。
- 便秘・発熱・睡眠不足対策のため、緩下剤、解熱剤、睡眠剤なども持参する。
海外旅行に行く時は、主治医に病名と飲んでいる薬の内容を一般名で書いた英文の証明書を書いてもらいましょう。税関で、抗てんかん薬が覚せい剤などではないことの証明になると共に、万一、外国で医師に診てもらう場合に役立ちます。
学校
学校生活を送る上では、規則的に薬を飲むこと以外に特別な注意はありません。
ただし、知的障害、運動機能の遅れ、言葉の遅れ、視聴覚障害、学習障害、注意欠陥、多動性障害などの合併症がある場合には、周囲の理解がないと、いじめなどの問題に発展する恐れがあります。学校側に事前に、発作の症状や頻度、対処法について知らせておいた方がよいでしょう。
また、発作が起きた時に、直接生命に危険が及ぶような場合以外は、積極的に学校行事に参加する方がよいでしょう。参加を制限することによって、子供は差別感を感じ、心理的な負担を抱えます。また、重要な時期にそれを体験することで、その後の社会性や心の発達に影響が現れますので、一律の禁止は好ましくありません。その子にふさわしい対応が大切です。
学校行事・修学旅行・臨海学校・林間学校について
宿泊学習などの時は、薬の飲み忘れで発作が起こり易くならないよう、規則正しく毎日同じ時間に飲むことに注意したり、更に、学校側には日頃から必要な注意を伝え、てんかんを正しく理解してもらえるよう、事前によく相談しましょう。
- 関連ページ
- 小児てんかん > 生活での注意点は?
予防接種
以前はてんかんの方への予防接種は禁じられていましたが1994年に予防接種法が改正され「てんかん発作が抑制され、最後の発作から2~3ヵ月程度経過している場合には、どの予防接種も問題ない」とされています。
しかし、発作が起きる場合や、発熱によって長時間発作が誘発されやすい場合には、予防接種が患者さんにとってより有益であるかどうか、の医師の判断が必要となりますので、事前に主治医とよく相談してください。
運転免許
てんかんの方の運転免許の取得には医師の許可が必要です。免許更新時にも同様に毎回、症状の申告や医師の診断書が必要となります。更に夜間のみ発作などの場合を除いて、2年以内に発作を起こしたことが一度でもあると道交法上運転はできません。その他にも一定の条件が決められています。
また、抗てんかん薬の使用によって、自動車運転に注意が必要な場合がありますので、必ず主治医にご相談ください。
運転に関する注意点
- 大型免許と第2種免許の取得*や運転を主たる職業とする仕事は控える。
*5年以上発作がコントロールされていて、抗てんかん薬の服薬も終えている場合のみ許可(「日本てんかん学会」)。 - 体調不良や薬を飲み忘れた時などには運転を控える。
- 運転に支障が生じる状態になった時には、運転適性相談窓口(運転免許センターなど)に相談する。
- 「改正道路交通法」「自動車運転死傷処罰法」によって以下の点が変更になりました。
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(1) 免許の取得・更新時の質問票に虚偽回答をして事故を起こすと罰則が科せられることがあります。
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(2) 病気の症状等を理由に免許が取り消しになった場合は、取り消しから3年未満に運転適性の状況が回復すれば、試験免除で免許の再取得が可能になりました。
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(3) 運転することができない状態であるのに運転をし続ける人を、医師が公安委員会に届け出ることができます。
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(4) 運転をしてはいけない状態であることを承知しながら運転し、死傷事故を起こした場合の刑罰が重くなりました。
就職
ほとんどの方はどんな仕事にも就くことできます。ただし、てんかんの治療には、できるだけ規則正しい生活を送ることが重要なので、職業を決める際にはそのことに考慮しましょう。
てんかんがある方は、発作や知能障害・性格障害などの合併症のために、職業生活に制約を受けることが多く、法律で就職できる職種が限られているため、就職や職業の維持が困難になることがあります。
また、てんかんであることを承知で雇用される場合でも、採用条件や労働条件が悪いため、自分の病気を隠して就職しようとする傾向があり、そういった場合は各市町村の「公共職業安定所」や「障害者就業・生活支援センター」に相談して職場を探す手助けをしてもらいましょう。
社会のてんかんに対する先入観や誤解はなくなりつつありますが、日中の発作が続く場合は、残念ながら、就職はかなり制限されてしまうのが現状です。ただし、てんかん患者向けの特別な社会復帰プログラムなどを行えば、就職率も高く、脱落例も少ないことがわかっているので、是非検討してみてください。
結婚・出産
1)結婚
結婚相手には自分の病気のことを理解してもらうことが重要です。てんかんの治療には、長期的な服薬や定期検査が欠かせないため、相手に隠したままでは落ち着いて治療が受けられないからです。また、病気を隠している精神的な緊張や負担が発作を誘発する可能性もあり、もし、相手の家族の前で発作が起これば、家族はだまされたと感じるかもしれません。
一方、相手やその家族に理解されて結婚した場合は、治療や妊娠時に大いに協力してくれるものです。自分で説明するのが難しかったり、不安や心配がある場合は、2人で主治医に説明を聞きに行ってみましょう。
2)妊娠
服用している薬の数や種類によっては、胎児への影響があるため、妊娠前に対策が必要な場合があります。安全性の高い抗てんかん薬への変更や量の調整など、主治医と相談して準備を進めましょう。時には妊娠前カウンセリングを受け、疑問や不安を十分に解消することも必要です。
妊娠中に全般性のけいれん発作が起きると切迫流産や切迫早産などの原因となりますが、妊娠中もきちんと薬を飲み、ストレスの少ない生活を送れば、約80%の患者さんの発作の頻度は、妊娠前と変わりません。しかし、抗てんかん薬の効果が、妊娠によって変化することもあるので、定期的な血中濃度検査や脳波検査が必要です。
また、妊娠中の発作の約50%は、薬の副作用に対する不安から、患者さん自身が薬の量や回数を勝手に変えてしまうことが原因と考えられていますので、妊娠中の安全対策については主治医とよく相談しましょう。
妊娠に関する注意点
- 発作は、できるだけ妊娠前に抑制しておきましょう。
- 一部の抗てんかん薬では、葉酸の低下が見られますので、先天異常発現の可能性がある血中葉酸濃度の低下が見られる時は、葉酸を補充しますので、主治医に相談しましょう。
- 妊娠初期にも血中葉酸濃度を測定し、低い時には葉酸を補充します。
- 妊娠後期の発作は、流産・早産の危険性を高めますので、妊娠中でも薬は規則的に飲みましょう。
- 発作が起こった時は、自分の判断で薬の量を調整せずに、必ず主治医に相談しましょう。
- 関連ページ
- 女性のてんかん > 妊娠
3)出産
薬や母親のてんかんは直接的には子供の精神運動発達に影響がないことが知られています。
ただし、一部の抗てんかん薬を飲んでいる場合は、一定期間、授乳を避けた方がよい場合があるので、必ず主治医に相談しましょう。また、子供の発達が遅れていると感じたら小児科医を訪ねてみましょう。
- 関連ページ
- 女性のてんかん > 出産
- 女性のてんかん > 育児
周囲の協力
てんかんのある方には、周囲の協力が必要です。
周囲の人達が、てんかんに対する正しい知識を身に付け、てんかん患者さんに適切に対応することは、患者さんが普通に日常を過ごすために大変重要なことです。
てんかんに対する先入観は徐々に減ってきたとはいえ、まだ、差別や疎外といった問題は残っています。逆に、ご家族や友人が過剰に保護したり、行動などを制限することで患者さんの精神的自立に影響があることもあります。
また、周囲の人は、てんかん発作が起こると「このまま死んでしまうのではないか」と心配になりますが、本人にはその記憶がなく、自分では「なんともない」と思っているので、周囲の人と本人で、てんかんに対する気持ちに大きなギャップが生まれ、そのため、患者さん本人は発作のことを後でいろいろ言われて、大変傷つくこともあり、注意が必要です。
家庭 |
てんかんを正しく理解して、規則正しい生活を送れるようにします。学校や職場には必要な注意や状況を伝え、協力を求めます。また、主治医と薬や生活について話し合うなど、治療に積極的に参加することが重要です。 |
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病院 |
適切な診断と薬の選択・調整を行い、ご家族や学校・職場にてんかんの知識を提供したり、治療に必要なことや注意すべきことを指導したり、その他の相談にも応じたりします。 |
学校 |
てんかんを正しく理解し、どのような発作が起こるかを知っておきます。発作の時は適切に対応し、どのような様子であったかを家庭に知らせます。また、てんかんがある子供が、できる限り日常生活を普通に過ごせるように、授業の遅れや周囲の先入観などをなくすような工夫をします。 |
社会制度
てんかんは、日本では、精神保健福祉法に基づき位置付けられています。また、てんかんに対する制度は、公費負担制度の他、医療保険の制度、税金の医療費控除などの様々な助成制度があります。それらを利用することにより経済的負担をかなり減らすことが可能です。ただし、それぞれの制度への申請手続きが必要になりますので、まずは状況を関係機関に相談することが重要です。
利用できる制度が複数ある場合は、申請手続きで以下を把握する必要があります。
- 適用の優先順位
- 償還払い(立て替え)かどうか
- 利用できる医療機関はどこか
- 自治体の制度はどうなっているか
主な医療費公費負担・助成制度など
- 障害者自立支援医療
- 高額療養費
- 心身障害児(者)医療費助成
- 自立支援医療制度
- 小児慢性特定疾患治療研究事業
- 乳幼児医療費助成制度
- 重度心身障害者医療費助成制度 税金の医療費控除
- 特別児童扶養手当て
- 障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)
- 精神障害者保健福祉手帳
- 身体障害者手帳
- 療育手帳
1)手帳サービス制度(精神障害者保健福祉手帳)
精神障害者保健福祉手帳は、精神障害*のため、長期にわたり、日常生活、または社会生活への制約がある方を対象にしています。年齢による制限や在宅・入院の区別はありませんが、初診から6ヵ月以上たった日から申請できます。また、症状の重さによって1級、2級、3級と分けられますが、発作症状があれば、精神症状や能力障害がなくても障害者手帳の対象となります。
申請窓口は市区町村の役所に窓口があります。担当する課は、市区町村によって福祉担当課や保険担当課など違いがありますので、お住まいの市区町村に確認してください。
*てんかんは精神疾患ではありませんが、法律では精神保健福祉法の対象疾患になります。
- 関連ページ
- 精神障害者保健福祉手帳で受けられるサービス
手帳で受けられる主なサービス
- 所得税、住民税、相続税などの税制上の優遇措置
- 生活保護の障害者加算の手続きが簡単に
- 福祉手当(経過措置)、障害児福祉手当、
特別児童扶養手当、特別障害者手当など - 携帯電話の基本使用料金が半額
(詳しくは携帯電話会社にお問い合わせください) - NTTの電話番号案内(104)が無料
2)自立支援医療制度
2006年4月1日から障害者自立支援法が施行され「精神通院医療費公費負担」は、
障害者自立支援法の「自立支援医療制度」に変更になりました。
利用者の自己負担は1割の定率負担ですが、負担が過大にならないよう、所得に応じて1月当たりの負担限度額を決められています。
また高額な治療を長期にわたり継続しなければならない方(重度かつ継続)、育成医療*の中間所得層の方については、更に軽減措置が実施されます。
*育成医療:児童福祉法第4条第2項に規定する障害児(障害に係る医療を行わない時は
将来障害を残すと認められる疾患がある児童を含む。)で、その身体障害を除去、軽減する手術等の治療によって確実に効果が期待できる者に対して提供される、生活の能力を得るために必要な自立支援医療費の支給を行うもの。
3)障害基礎(厚生)年金
てんかん発作がコントロールされず、日常生活、社会生活、経済生活上で困難がある場合、所得補償として障害年金の受給が可能です。
- 受給要件
初診後、1年6ヵ月たった日(障害認定日)から、次の3要件を満たしていれば、障害年金を受けることができます。 -
1) 加入要件
初診日に公的年金(国民、厚生、共済)に加入していること。
加入している年金によって受けられる年金が決まります。 -
2) 病納付要件
初診日の前々月までに、加入すべき期間の3分の2以上が保険料納付または免除期間で満たされていること。 -
3) 障害状態要件
障害認定日またはこの日以降65歳前までに、障害の状態が「障害認定基準」に該当していること。