雇用や定着のために知っておくべきこと
少子高齢化が進み、労働力人口が慢性的に不足している日本では、さまざまな人材を登用することが課題になっています。現在、多くの企業がダイバーシティを重視する背景には、有能な人材の発掘や社会のさまざまなニーズへの対応などの狙いがあります。てんかんを持っている方もさまざまな活躍をされています。てんかんを持っている方の安定した就業のためには、てんかんを正しく知り、適切な配慮を行うことが大切です。
てんかんを正しく知る
てんかんは古くから知られている病気ですが、医学的知識が少ない時代に誤解され、現在でも、てんかんは突然意識を失って倒れるとのイメージを持っている方がいらっしゃるかもしれません。
てんかんは、何歳からでも誰でも発症する可能性のある病気で、日本では約100万人の患者さんがいる「ありふれた病気」です。てんかんと一言でいっても、症状や発作は個々に異なり、多くの場合、お薬により発作を抑えることができます。また、日常生活に支障がない場合もあります。
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てんかんを持っている方の活躍の場を知る
てんかんを持っている方は幅広い領域で活躍しています。
てんかん協会が2001年に行った調査では、全就業者と比較すると、てんかんを持っている方は農林漁業、運輸・通信の職業についている人の割合が低いものの、総じて一般就業者の職種と比べ大きく偏っているものではないことが示されました。
全就業者とてんかんのある就業者の職種比較
出典:日本てんかん協会. 「働きたーい!」の思いを実現するために てんかんのある人の就労マニュアル. p.55-57.
日本てんかん協会.
2004
就業継続年数については、1984年の調査でも、2001年の調査でも、3年以上働いている人が50%を超えていることが示されました。
現在の職の継続年数(603人の回答から)
出典:日本てんかん協会. 「働きたーい!」の思いを実現するために てんかんのある人の就労マニュアル. p.55-57.
日本てんかん協会.
2004
就業時間の調査では、週40時間以上44時間未満の方が多く、26.5%でした。
1週間あたりの就業(勤務)時間:2001年
人数 | 構成比% | |
---|---|---|
32時間未満 | 109 | 18.1% |
32時間以上40時間未満 | 113 | 18.7% |
40時間以上44時間未満 | 160 | 26.5% |
44時間以上48時間未満 | 85 | 14.1% |
48時間以上 | 89 | 14.8% |
わからない | 22 | 3.6% |
無回答 | 24 | 4.0% |
無効回答 | 1 | 0.2% |
計 | 603 | 100% |
出典:日本てんかん協会. 「働きたーい!」の思いを実現するために てんかんのある人の就労マニュアル. p.55-57.
日本てんかん協会. 2004
制度について知る
てんかんを持っている方は、障害者雇用促進法では「精神障害者」にあたります。障害者雇用促進法は、障害者雇用に関する基本的なルールを定めている法律です。主な制度についてご紹介します。
雇用にかかわる制度
雇用義務制度(障害者雇用促進法 第37条) |
事業主には、障害者の雇い入れ努力義務があります。法定雇用率が定められており、上回っている場合は調整金を交付し、充足していない場合は納付金の支払いが生じる制度です。 障害者雇用促進法では、てんかんを持っている方は精神障害者にあたりますが、雇用義務制度において計算対象となるのは精神障害者のうち、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者になります。 |
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もにす認定制度 |
障害者雇用の取り組みの実施状況などが優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度です。 |
障害者雇用で事業主が受けられる助成金制度 |
【障害者を雇用したときに受けられる助成金・定着支援のための助成金】
【職業能力開発・向上のための助成金】
【施設等の整備などを行うための助成金】
などの助成金制度を利用することができます。 |
障害者雇用の支援を行っている機関を知る
障害者雇用にあたり、支援を行っている公的機関があります。
障害者雇用の支援を行っている公的機関
ハローワーク |
障害者雇用率を達成するための指導、職場定着・雇用継続のための支援 など |
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独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 |
各種助成金の申請の受付、障害者職業生活相談員の資格認定講習の開催 など |
地域障害者職業センター |
ジョブコーチによる支援、リワーク支援、地域の専門家と協力した障害者の雇用管理 など |
障害者就業能力開発校 |
雇用されている障害者に対する在職者訓練の実施 など |
障害者就業・生活支援センター |
就労後の職場定着に向けた支援 など |
就労移行支援事業所 |
職場実習のあっせん、就労後の職場定着に向けた支援 など |
特別支援学校 |
障害者雇用への理解を深めるための見学会の実施 など |
各種免許・資格について知る
てんかんを持っている方では、取得に条件がある免許や資格、取得できない免許があります。
法律上、取得できない免許や資格
- 航空機に乗務し運行を行う航空従事者
- 船員(船内での治療の見込みがなく、船内労働に適さないと認められる場合)
- 銃砲または刀剣類の所持における許可*
- 狩猟免許*
*発作の再発のおそれがないもの、発作が再発しても意識障害がもたらされないものおよび発作が睡眠中に限り再発するものを除く
法律は改正されます。現在の法律を確認してください。
運転免許について
てんかんを持つ人の運転免許の取得、更新には、「継続的に診察している主治医」の診断書、または「日本てんかん学会認定医(臨床専門医)または認定医(臨床専門医)に準ずる医師」による臨時適正検査を受ける必要があります。
自動車運転免許取得条件
- 発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
- 発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後、X年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
- 医師が、1年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
- 医師が、2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
日本てんかん学会法的問題検討委員会: てんかん研究 20, 135-138, 2002
2014年の道路交通法の改正により、「免許取得時・更新時等における質問制度」、「医師による任意の届け出制度」が設けられました。
運転免許の取得または更新をするときに、申請書の裏にある病状などを確認する質問票へ回答する制度です。
2013年の法改正で回答が義務化されました。
一定の病気にかかっているドライバーを診察した医師が、自動車等の運転に支障があると思われる場合、診察結果を公安委員会へ任意で届け出ることができる制度です。