てんかんとは、どんな病気?
てんかん発作を繰り返す脳の病気で、年齢、性別、人種の関係なく発病します。世界保健機関(WHO)では、てんかんは「脳の慢性疾患」で、脳の神経細胞(ニューロン)に突然発生する激しい電気的な興奮により繰り返す発作を特徴とし、それに様々な臨床症状や検査での異常が伴う病気と定義されています。
生涯を通じて1回でも発作を経験する人は人口の約10%、2回以上は約4%、そのうち「てんかん」と診断される人は約1%で、日本では約100万人のてんかん患者が存在します。
てんかん発作は、大脳の電気的な興奮が発生する場所によって様々ですが、発作の症状は患者さんごとにほぼ一定で、同じ発作が繰り返し起こるのが特徴です。また、発作時は脳内の電流が乱れているため、脳波を測定すると異常な波(棘波・きょくは)が現れ、てんかんの診断に用いられます。
乳幼児期から老年期までに幅広くみられ、人口100人のうち0.5~1人(0.5~1%)が発症。発病年齢は3歳以下が最も多く、成人になると減りますが、60歳を超えた高齢者になると脳血管障害などを原因とする発病が増加します。小児てんかんの患者さんの一部は成人になる前に治ることもありますが、ほとんどは治療を継続することが多いです。
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出典: Anderson VE, Hauser WA, Rich SS. Adv Neurol 44:59.1986
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てんかんの原因はなに?
てんかんの原因は様々で、中には原因不明の場合もあります。
- 脳出血や脳梗塞、アルツハイマーなどの病気
- 出産時のトラブルなどによる脳障害
- ウイルスや細菌による感染症
- 遺伝子の変異
- 先天的な代謝異常
- 自己免疫の異常 など
1)てんかんは脳の機能の乱れ
人間の体には神経が張りめぐらされ、その神経の中を弱い電気信号が通ることによって色々な情報が伝達されます。脳には神経細胞が集合し、様々な情報を処理しています。たとえば、目や耳、皮膚、舌からなどの情報は、神経を通じて脳に伝達されることによって「きれい」「暑い」「甘い」などと感じます。逆に「話す」「走る」などのように、脳からの命令を伝達することによって体を動かしたりもします。 さらに、意識しない心臓の動きや呼吸の調節、感情・情緒・理性などの精神活動や記憶も脳で制御しています。
このような働きのある脳内の電気信号が、何かの原因で一斉に過剰に発生すると、その部位の脳の機能が乱れ、脳は適切に情報を受け取ることや命令ができなくなり、体の動きをコントロールできなくなります。
2)発作の起こる部位と症状の関係
大脳は、中央の溝を境に大きく右半球と左半球に分かれています。そして、右半球は左半身を、左半球は右半身の神経を調整し、また脳は各部位ごとにそれぞれの働きを担っているため、電気信号の乱れや興奮が起こる部位によって発作の症状が変わってきます。
てんかん患者さんは、発作の起こる部位が決まっているために、発作ごとに同じ症状が繰り返されます。たとえば、手を動かす神経の部位で過剰な電気的興奮が起こると手のけいれんが起こります。
3)発作の起こる仕組み
脳の神経は興奮と抑制がバランスよく働いています。興奮が強くなりすぎると抑制系の神経が働いて興奮を抑える、というようにバランスを取ります。
しかし発作が起こる時には、興奮系の神経が強く働いたり、抑制系の神経の力が弱まることで、脳内に激しい電気的乱れ(過剰興奮)が生じます。
4)大脳の各部位の働き
人間の脳は大脳、小脳、間脳、脳幹などから構成されています。その中で、人間らしい複雑な行動をコントロールするのが大脳で、主に前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の4つに分けられ、それぞれの部位によって働きが異なります。
- 手足など、体の各部を動かす指令を出します。
- 思考・推理・理性・学習・選択などの高度な情報処理を司ります。
- 皮膚や耳などから入る感覚情報を分析します。
- 空間を認識します。
- 人の顔や物の形など、目から入る情報を認識します。
- 耳から入る音や言葉の情報や情動に関係します。
- 側頭葉の内側には、記憶に関わる領域である海馬(かいば)があり、ここはてんかん発作の起こり始めとなることが多い部位です。
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てんかん発作の種類
「てんかん」と「てんかん発作」は違い、医学的には両者を使い分けています。
- てんかん発作の症状をもった病気のこと。「てんかん症候群(しょうこうぐん)」とも呼ばれる。
- てんかん患者さんに起こる発作症状のこと。
てんかん発作の分類
てんかん発作は、過剰な電気的興奮が起こる部位や電気的な興奮の広がり方によって、まず「焦点発作(部分発作)」か「全般発作」、あるいは「起始不明発作」に分けられます。そこから、意識障害の有無や発作症状の内容などにより、さらに細かく分類されます。いずれにも分類できない発作や、分類に必要な情報が得られていない発作は「分類不能発作」となります。
1)焦点発作(部分発作)
過剰な電気的興奮が脳の一部に限定されて起こる発作です。意識障害の有無により「焦点意識保持発作(単純部分発作)」と「焦点意識減損発作(複雑部分発作)」に分けられます。焦点発作(部分発作)の中には、限定部位から大脳全体に広がるものや、焦点発作(部分発作)に続いて全般発作がみられるものがあり、それらは「焦点起始両側強直間代発作(二次性全般化発作)」と呼ばれます。
- 意識障害:なし
患者さん本人は意識があるため、発作の始まりから終わりまで、症状を全て覚えています。 -
症状:
- ・運動機能の障害
(手足や顔がつっぱる、ねじれる、ガクガクとけいれんする、体全体が片方に引かれる、回転する等) - ・視覚や聴覚の異常
(輝く点や光が見える、ピカピカする、音が響く、耳が聞こえにくい、カンカンと音が聞こえる等) - ・自律神経の異常
(頭痛や吐き気を催す等)
- ・運動機能の障害
- 意識障害:あり
意識が徐々に遠のいていき、周囲の状況がわからなくなるような意識障害や記憶障害がみられます。
しかし、意識障害中に倒れることは少ないです。 - 症状:
- ・意識減損発作
(急に動作を止め、顔をボーっとさせる等) - ・自動症
(辺りをフラフラと歩き回ったり、手をたたく、口をモグモグさせるといった無意味な動作を繰り返す等)
- ・意識減損発作
(二次性全般化発作)
焦点意識保持発作(単純部分発作)または焦点意識減損発作(複雑部分発作)の症状から始まり、その後発作が脳全体に広がり強直間代(きょうちょくかんたい)発作に進展します。発作が始まる前に前兆が見られることがあります。発作症状だけでは強直間代発作との見分けが難しいことがありますが、脳波の測定により診断できます。
2)全般発作
大脳の両側の広い範囲で過剰な興奮が起こる発作です。発作時には、ほとんどの患者さんに意識はありません。
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突然発症して、強直発作と間代発作を起こします。
発作後は、30分~1時間位の眠り(終末睡眠)へ移行することもあり、その後は普段の状態に戻ります。
発作直後は意識がもうろうとするので、物にぶつかったり、熱い物に触ってやけどをするなど、発作そのものよりも、もうろう状態での事故に注意が必要です。
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強直(きょうちょく)発作
突然意識を失い、口を固く食いしばり、呼吸が止まり、手足を伸ばした格好で全身を硬くし、数秒~数十秒間持続します。強直したまま激しく倒れ、けがをすることもあります。
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間代(かんたい)発作
膝などを折り曲げる格好をとり、手足をガクガクと一定のリズムで曲げたり伸ばしたりするけいれんが起こります。一般には数十秒で終わりますが時に1分以上続くこともあります。
数十秒間にわたり意識がなくなる発作です。
けいれんを起こしたり、倒れたりはしません。
話をしたり、何かをしている時に、突然意識がなくなり、急に話が途切れたり動作が止まったりします。
注意力がない、集中できない、などと思われて、周囲の人がてんかん発作であることに気付かないこともよくあります。学童期や就学前に症状が現れることが多く、女児に多い発作です。
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症状:
- ・突然意識がなくなり、ぼんやりした目つきになる
- ・眼球が上転する
- ・まぶたがピクピクする(1秒間に3回程度の頻度)
- ・動作を停止する
- ・呼びかけにも反応しない
全身の筋肉の緊張が低下・消失するため、崩れるように倒れてしまう発作です。発作の持続時間は数秒以内と短く、発作と気付かれにくいこともよくあります。
全身あるいは手足など、どこか一部分の筋肉が一瞬ピクッと収縮する発作です。
瞬間的症状のため、自覚することが少ない発作ですが、連続して数回起こることもあり、また、転倒したり、持っている物を投げ飛ばしてしまうほど症状が強いこともあります。
光によって誘発されることがあり、寝起きや寝入りに起こりやすい傾向があります。
3)てんかん重積状態
発作がある程度の長さ以上続く、または短い発作が繰り返し起こり、その間の意識がない状態で、生命に危険が及ぶ可能性があります。従来は、発作が「30分間以上続いた場合」とされていましたが、最近では5~10分間以上発作が続く場合は、てんかん重積状態と判断して治療を開始するようになりました。
てんかんの分類
てんかんは、発作型を分類した後、診察や検査で得られたさまざまな情報に基づいて「焦点てんかん(部分てんかん)」、「全般てんかん」、「全般焦点合併てんかん」、「病型不明てんかん」のいずれかのてんかん病型に分けられます。さらに、発作の内容のほか、発症年齢や発作を誘導する要因、併存症などを考慮して、てんかん症候群が診断されます。正確なてんかんの診断は治療とその後の経過の見通しに重要な意味を持つため非常に大切です。
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1)てんかん分類は難しいことがある
新生児発作など、明確に分類できない場合には「分類不能」として取り扱う場合もあります。
記載の発作や症状の分類はあくまで代表的なもので、必ずしも明確に当てはまるわけではありません。
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けいれん発作との違い
「けいれん」とは自分の意志とは無関係に、勝手に筋肉が強く収縮する発作性の運動症状のことです。てんかん以外にも、高熱、感染症、電解質異常、薬物、頭蓋内病変(腫瘍、外傷、低酸素脳症など)、脊髄や末梢神経の刺激などによってけいれんが引き起こされます。これらの疾患によるけいれんとてんかん発作で起こるけいれんでは、治療法も違ってきます。
熱性けいれんは、けいれんを起こしますが、てんかんにも発熱がきっかけとなって起こる発作もあり、判断がつきにくい場合もあるので注意が必要です。
代表的なけいれん
熱性けいれん | 小児が高熱を出した時に起こす |
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眼瞼けいれん、 単純性筋けいれん |
まばたきを繰り返す、まぶたがピクピク動く |
片側顔面けいれん | 目のまわり、口もと、頬がピクピク動く |
チック | 顔のさまざまな筋肉がときどきピクッと動く |
羽ばたき振戦 | 手足をパタパタと羽ばたきさせるように動く |
てんかん発作を誘発する要因と対処法
てんかん発作はきっかけなく起こることも多いですが、特定の状況において発作が起こりやすいことがあります。どのような状況でどの程度発作が起こるかは、患者さんによって違います。
対処を考えるためには、今までどのような状況で発作が起こりやすかったかを振り返る必要があります。どのような状況で発作が起こりやすかったかを把握するためにも発作の記録を付けておくとよいでしょう。
てんかん発作のきっかけとなる要因
てんかん発作のきっかけとなる要因をご紹介します。発作が起こる前にこのようなことがなかったか、振り返ってみてください。
てんかん発作のきっかけとなる要因
- 体温の上昇
- 過呼吸
- 月経
- 睡眠不足
- 睡眠リズムの乱れ
- 肉体的な疲労
- 精神的な疲労
- ストレス
- お薬の飲み忘れ
- 計算やパズル
- 読書
- ビデオゲーム
- 光の点滅やしま模様
- 急な音
- 気圧などの気象条件
など
対処を考えるために、どんな状況や状態で発作が起こりやすかったかを振り返ることが大切です。
てんかん発作のきっかけとなる要因の対処法
きっかけとなる要因の対処法をご紹介します。
1)体温の上昇
暑さで体温が上がると発作が起こりやすくなることがあります。直射日光を避けたり、冷却剤で体を冷やすなど、体温が上がらない工夫をしてください。
2)睡眠不足や疲労、ストレス
生活リズムを整えることが大切です。睡眠不足にならないよう、寝室に携帯電話やスマートフォンを持ち込まないなどの工夫をして睡眠環境を整えてください。どんなときにストレスが軽くなるかを知ることも大切です。ストレスを減らしながら心地良く生活し、きっかけとなる要因を減らしていきましょう。
3)お薬の飲み忘れ
お薬は処方された通りに服用してください。お薬を飲み忘れたときの対応について、医師や薬剤師に確認しておくことも大切です。
4)月経
月経にあわせて発作が起こる場合は、医師に相談してください。月経周期にあわせて、お薬を変更したり、治療を追加したりする場合があります。
5)光の点滅など
光がきっかけとなる場合は、サングラスを着用するなど光を避ける工夫をしてください。木洩れ日やブラインドなどのしま模様でも発作のきっかけとなることがあります。目をそらすことでも発作を予防できるかもしれません。
6)計算やパズル、読書など
特定の刺激や行為がしばらく続いたあとに発作が起こることがあります。計算やパズル、読書を長時間行うことを避け、適宜休憩をとることが大切です。
避けられるものは避け、避けられない場合は集中しすぎないよう心がけることが大切です。
発作の記録
どんなときに発作が起こりやすいかを把握するためだけでなく、診察や診断のために発作を記録しておくことが大切です。発作を記録するときのポイントをご紹介します。紙や手帳にメモしたり、スケジュール帳に印を付けたり、携帯電話のメモ機能を使うなど、ご自身にあった方法で記録をしてみてください。
発作を記録するときのポイント
発作を記録するときのポイントです。これらのポイントを参考にし、わかる範囲で記録してください。患者さんご自身にしかわからないこと、まわりの方が気付くことのどちらも大切です。
発作を記録するときのポイント
発作が始まるときの状況 |
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発作中の様子 |
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発作後の様子 |
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発作への対応 |
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最近の状況 |
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主な合併症
てんかん患者さんに特有の合併症は、原因によって主に3つに分けられます。
1)脳障害
脳卒中や脳内出血など、脳の障害のある部位により、運動の障害、知的障害、言語障害がみられることがあります。特に、脳に障害があるなど特定の原因により発作が起きる全般てんかん(症候性全般てんかん)には知的障害を認めることが多くあります。一方、脳障害などの原因がないてんかん(特発性てんかん)では一般的に知的障害はありません。
2)精神症状
発作が起こる前に怒りっぽくなるなど、発作の症状として精神症状が現れることがあります。精神症状は焦点意識減損発作(複雑部分発作)の際に多くみられ、さらに、発作後に不安感や興奮状態などがみられることもあります。
てんかんに関連した精神症状
意識障害 | 意識が変わる(意識変容)、もうろうとする、意識が混濁する |
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感情障害 | 不機嫌になる、怒りっぽくなる |
性格変化 | まわりくどくなる(迂遠、冗漫)、しつこくなる(粘着性) |
精神病様状態 | 幻覚がみえる、妄想的になる |
行動異常 | 無意味な動作を繰り返す(自動症)、異常な行動、暴力的、犯罪 |
3)精神的不安(二次的な症状)
てんかんの患者さんは心理的な負担、あるいは社会生活で問題を抱えており、それらに基づく不安、絶望、消極、孤立、逡巡、敏感、防衛、不幸せ感などから、うつ病などの精神的な問題を引き起こす可能性があり、周囲の支援が必要です。
てんかん患者の性格的特徴
発作とは直接関連しませんが、てんかん患者さんに多い性格的特徴として、粘着性が高い、物にこだわりやすい、回りくどい話し方をするなどがあげられます。これは、発作を繰り返すことで脳に影響した結果と考えられていますが、最近は早い段階から治療を始めるので、このような性格への影響はほとんど見られなくなりました。